熱電変換:チタン酸ストロンチウム結晶に閉じ込められた二次元電子の巨大熱起電力

Thermoelectric Power Generation: Giant Thermopower 2DEG in SrTiO3
[Nature Materials 2007/ Materials Today 2007/ Appl. Phys. Lett. 2007/ Appl. Phys. Express 2008/ phys. stat. sol. (b) 2008/ Inorg. Chem. 2008/ phys. stat. sol. (RRL) 2008/ Phys. Rev. B 2010]

stosuperlattice

図:(左)[(SrTiO3)24(SrTi0.8Nb0.2O3)1]人工超格子のHAADF-STEM像(撮像:東大・溝口照康 先生)
(右)SrTiO3のSeebeck係数と伝導電子濃度の対数プロット。1単位格子厚のSrTiO3層に閉じ込められた伝導電子はバルクの5培のSeebeck係数を示す

人工宝石として知られるありふれた酸化物であるチタン酸ストロンチウムを使って高い効率を示す熱電変換材料の開発に世界で初めて成功しました。廃エネルギーの再資源化で注目されている熱電変換材料は、温度差を与えると発電し(ゼーベック効果)、逆に電気を流すと冷える(ペルチェ効果)、という性質を示すことから、腕時計の発電素子や携帯型冷蔵庫の冷却素子などとして利用されています。しかし、現在多く利用されている材料は、重金属であるビスマス、アンチモン、鉛などであり、地球上における埋蔵量が少なく、有毒で、また耐熱性が低いことから本格的な実用化は妨げられています。近年、身近な材料で、毒性がなく、耐熱性が高い酸化物が注目されてきていますが、重金属に比べ熱電変換効率が著しく低い(十分の一以下)という問題がありました。チタン酸ストロンチウムは、本来、電気を通さない絶縁体ですが、少量のニオブ添加をすることや、内包されている酸素を引き抜くことで、電子が生成されることが知られています。今回、このチタン酸ストロンチウムという酸化物の中に、高濃度の電子を溜め込んだ超極薄シートを挟み込むことによって巨大な熱起電力(温度差1℃あたり約800マイクロボルト)を発生することができました。 本研究チームは、精密で超薄の製膜技術により、電子を生成させた厚さ0.4ナノ(十億分の一)㍍のチタン酸ストロンチウム超極薄シートを、厚さ3.6ナノ㍍の絶縁体のチタン酸ストロンチウムで上下に挟んだサンドイッチ構造にすることで、電子を溜め込むことに成功しました。その結果、熱起電力が電子を生成させた通常のチタン酸ストロンチウムの約5倍に上昇し、熱電変換性能では従来の重金属の約2倍を達成して、本格的な実用化に大きく前進しました。これにより、発電素子、冷却素子、熱センサーなどへの幅広い応用が期待できるほか、太陽光発電のようなクリーンエネルギー技術に繋がる可能性があります。
この成果は、科学技術振興機構 (ERATO-SORST & CREST)、東京工業大学・細野秀雄教授、金 聖雄博士、野村研二博士(C-V測定)、および東京大学・幾原雄一教授、溝口照康助教(走査型透過電子顕微鏡観察)らとの共同研究で得られたものです。また、名古屋大学の太田慎吾博士(現豊田中央研究所、チタン酸ストロンチウム研究開始当初から本研究に関与)、野村隆史氏(現トヨタ自動車、チタン酸ストロンチウム研究開始当初から本研究に関与)、宗 頼子さん(人工超格子作製)、中西由貴さん(低温Seebeck係数測定)らの実験での貢献は絶大でした。