オンデマンド赤外線&導電率制御デバイス

On-demand IR & conductivity controlling device
[Advanced Electronic Materials 2015 DOI: 10.1002/aelm.201500063]

vo2transistor

光透過率と導電率を同時にスイッチするためには、エレクトロクロミック材料が必要です。エレクトロクロミック材料として、飛行機の窓に応用されている酸化タングステン(WO3)が知られていますが、WO3はエレクトロクロミズムにより、赤外線透過率と同時に可視光透過率も減少してしまうため、赤外線透過率のみのスイッチングには不適な材料と言えます。
本研究チームは二酸化バナジウム(VO2)に着目しました。VO2は68 oCで単斜晶⇔正方晶の構造相転移を伴う金属―絶縁体転移と同時に赤外線透過率のみが大幅に減少するサーモクロミック材料として知られています。不純物を全く含まないVO2は、室温では絶縁体であり、可視光・赤外線を透過しますが、プロトン化することで金属化し、赤外線だけを遮断することが可能です。VO2のプロトン化・脱プロトン化を利用すれば可視光は透過したまま、赤外線だけを透過・遮断可能な機能性調光ガラスが実現可能ですが、VO2のプロトン化には、水素雰囲気下での高温熱処理や、電解液中における電気化学処理が必要という問題がありました。
本研究チームは、スポンジのように水を含むナノ多孔質ガラス(CAN)をゲート絶縁体としてVO2薄膜に貼りつけた薄膜トランジスタ構造(図左)を作製し、室温でのゲート電圧印加によってVO2薄膜のプロトン化・脱プロトン化を試みました。正のゲート電圧を印加することで、CAN薄膜中の水を電気分解し、生成するH+をVO2薄膜中に電気化学的に導入することでプロトン化しました。このとき、VO2薄膜のシート抵抗と熱電能(絶対値)は劇的に減少(金属化)し、電子顕微鏡観察の結果、プロトン化前は単斜晶だったVO2が、プロトン化後には正方晶(HxVO2)に変化することが分かりました。プロトン化したVO2に、負のゲート電圧を印加したところ、脱プロトン化が起こって絶縁体に戻ることが分かりました。高温熱処理や電解液を全く必要としない、全固体薄膜デバイス作製に成功したと言えます。例えば、窓ガラスに応用することで、室温管理の邪魔者である赤外線の透過率と、エアコンなどの電気スイッチを、オンデマンド制御可能なスマートウィンドゥへの応用が期待できます。
本成果は、片瀬貴義 助教、太田裕道 教授と東京大学 総合研究機構の藤平哲也 助教、幾原雄一 教授との共同研究によって得られたものです。