たったひとつの試料で熱電材料の性能を最適化

One sample optimization of thermoelectric performance
[Advanced Materials 2012 DOI: 10.1002/adma.201103809]

熱電能電界変調法

thermopowermodulation

(左)n型熱電材料上に形成された電界効果トランジスタ構造にゲート電圧(Vg+)を印加することで誘起される二次元電子ガス(2DEG)に温度差を付与して熱起電力を計測する方法の模式図。チタン酸ストロンチウム結晶上に作製した電界効果トランジスタにおける熱電能と(中)電子濃度、(右)二次元電子ガス層の厚さの関係(室温)(赤:CANゲート絶縁体を使用、青:一般的な酸化物ゲート絶縁体を使用)。電子濃度が2.5×1014 cm-2以下の場合、熱電能の絶対値は電子濃度の増加に伴い減少し、シミュレーションにより求めたバルクの熱電能とほぼ一致した。電子濃度が2.5×1014 cm-2を越えると熱電能の絶対値が上昇し、バルクの5倍に相当する非常に大きな値を示した。この時の二次元電子ガス層の厚さは2ナノ㍍と見積もられた。

工場や火力発電所などから出る排熱(熱エネルギー)を電気エネルギーに変換する高性能な熱電材料の探索が世界中で行われています。熱電材料の性能(熱電変換効率)は、高い熱電能と高い電子濃度、それに低い熱伝導率という3つの互いに相関するパラメータによって決まります。このことから、熱電材料の探索、評価および最適化を図る上では、パラメータを多く変化させて解析する技術の確立が望まれています。また、厚さ数ナノメートルの「人工超格子」がバルクの数倍高い熱電能を示すことが分かっていますが、「人工超格子」技術は結晶構造が複雑な物質には適用することができないという側面があり、実用的な面を考えれば、より簡便な技術への転換が必要とされていました。
本研究では、電界効果トランジスタ(FET)技術が熱電材料の性能評価に有効であることを明らかにしました。熱電材料にはSrTiO3を用い、SrTiO3をチャネル層とするFETのゲート電圧を制御することで試料の電子濃度を連続的に変化させ、熱電能を計測することに成功しました。また、本試料に高いゲート電圧を印加することにより、バルクのSrTiO3と比較して5倍に相当する大きさの熱電能を観測することにも成功しました。つまり、作製が難しい人工超格子を作らなくてもよいわけです。
以上のように、デバイス作製技術としてよく知られているFET技術を駆使することによって、たった1つの試料で熱電材料の性能の探索、評価および最適化が可能であることを示したことになり、今後さらなる高性能な熱電材料探索を一層加速させるものと期待されます。
この成果は科学技術振興機構さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」領域、名大、東大・幾原雄一 教授のグループ(含JFCCナノ構造研究所)、東工大・細野秀雄 教授のグループとの共同研究で得られたものです。また、この研究によって共同研究者である水野君(修士課程学生)は薄膜材料デバイス研究会と日本セラミックス協会東海支部研究発表会において講演賞を受賞しました。