まるでスポンジ? 低温で可逆的に酸素が出入りする酸化物を発見

北海道大学電子科学研究所の太田裕道 教授は、米国オークリッジ国立研究所のHoNyung Lee 博士、米国アルゴンヌ国立研究所のJohn Freeland 博士らと共同で、酸素が低温で出入り可能な、まるで「スポンジ」のよ…..

北海道大学電子科学研究所の太田裕道 教授は、米国オークリッジ国立研究所のHoNyung Lee 博士、米国アルゴンヌ国立研究所のJohn Freeland 博士らと共同で、酸素が低温で出入り可能な、まるで「スポンジ」のような酸化物材料の創製に成功し、二次電池や燃料電池、触媒など、新しいエネルギーデバ イス実現に向けて大きく前進しました。この研究成果は、2013 年8 月25 日に英科学誌ネイチャー・マテリアルズにオンライン出版されました[1][2]

二次電池や燃料電池、触媒などの多くのエネルギーデバイスには、材料の酸化還元反応が利用されています。例えば、自動車の排気ガスの浄化では、白金触媒の 酸化還元作用による一酸化炭素ガスの無害化が行われています。現在、高価で資源の乏しい白金触媒の代替として酸化物触媒の研究開発が進められていますが、 従来の酸化物触媒は600–700度の高温下でなければ酸化還元反応が起こらないので、残念ながら実用化に至っていません。

本研究において、太田教授、Lee博士、Freeland博士らの共同研究グループは、白金などの貴金属と同程度の低温(200–300度)で可逆的に酸化還元反応が起こる酸化物を発見しました。具体的には、ペロブスカイト型SrCoO3-δとブラウンミラライト型SrCoO2.5の2種類の結晶構造を有するSrCoOxに着目し、SrCoOxエピタキシャル薄膜の結晶構造・電子構造・導電性・磁気特性・熱電特性を詳細に調査しました。その結果、SrCoOxエピタキシャル薄膜では、非常に短時間(1分間)に、極めて低温(200–300度)で、かつ可逆的に結晶中の酸素濃度が変えられることを見出しました。エピタキシャル薄膜化により結晶骨格が安定化されたことで、ペロブスカイト型SrCoO3-δ⇔ブラウンミラライト型SrCoO2.5のトポタクティック注)な 結晶構造変化が容易になり、まるで「スポンジ」のように、結晶を破壊することなく酸素が出入りすることが分かりました。このことは二次電池や燃料電池、触 媒などの新しい材料を創製するために極めて有用な情報であり、今後の新しいエネルギーデバイス実現に向けた大きな前進と言えます。

なお、本研究成果の一部は、科学研究費補助金 基盤研究(A)(課題番号25246023)のサポートを受けて実施しました。

[1] Hyoungjeen Jeen, Woo Seok Choi, Michael D. Biegalski, Chad M. Folkman, I-Cheng Tung, Dillon D. Fong, John W. Freeland, Dongwon Shin, Hiromichi Ohta, Matthew F. Chisholm & Ho Nyung Lee, “Reversible redox reactions in an epitaxially stabilized SrCoOx oxygen sponge”, Nature Materials (2013) doi:10.1038/nmat3736
注)トポタクティック
イオン結晶の基本骨格が保たれたまま、可動イオンが出入りすることで2種類の結晶構造をとる反応のこと。
図 SrCoOxエピタキシャル薄膜のトポタクティック酸化還元反応の模式図。200–300度の低温で真空中加熱するとペロブスカイト相→ブラウンミラライト相に還元反応が起き、酸素中加熱すると可逆的にブラウンミラライト相→ペロブスカイト相への酸化反応が起こる。