新しい「酸素を呼吸する」結晶を発見
Nature Communications 16, 7391 (2025)
釜山大学校(韓国)自然科学大学物理学科のHyoungjeen Jeen教授が率いる国際研究チームは、Nature Communicationsに論文「エピタキシャルSrFe0.5Co0.5O2.5薄膜の選択的還元とその可逆性」を発表しました。
本研究には、電子科学研究所 薄膜機能材料研究分野のキムゴウン博士(OG)および太田裕道教授も参加しています。2024年3月1日より、釜山大学校自然科学大学物理学科と北海道大学電子科学研究所との間には学術交流協定(MoU)が締結されています。今回の研究成果は、両研究機関の協力関係を一層強化するものと期待されます。
原著論文
Joonhyuk Lee, Yu-Seong Seo, Krishna Chaitanya Pitike, Gowoon Kim, Sangkyun Ryu, Hyeyun Chung, Su Ryang Park, Sangmoon Yoon, Younghak Kim, Valentino R. Cooper, Hiromichi Ohta, Jinhyung Cho, and Hyoungjeen Jeen*, “Selective reduction in epitaxial SrFe0.5Co0.5O2.5 and its reversibility”, Nature Communications 16, 7391 (2025). (DOI: 10.1038/s41467-025-62612-1)
国際共同プレスリリース発表概要
https://www.global.hokudai.ac.jp/news/23220
今回発見された新素材は、ストロンチウム・鉄・コバルトからなる特殊な金属酸化物です。最大の特徴は、単純なガス環境で加熱すると酸素を放出し、再び吸収できる点にあります。この「酸素を呼吸する」機能は繰り返し行うことが可能で、実用化への大きな可能性を秘めています。材料中の酸素を制御することは、水素から最小限の排出で電気を発生させる固体酸化物燃料電池のような技術にとって不可欠です。また、熱を電気スイッチのように制御できる熱トランジスタや、天候に応じて熱の流れを調整するスマートウィンドウにも役割を果たします。
これまで、このような酸素制御が可能な材料のほとんどは、極端な高温のような過酷な条件下でしか機能せず、また機械的に脆いことが課題でしたが、この新素材はより穏やかな条件下で安定に機能します。詳細な結晶構造解析の結果から、観測された結晶構造の呼吸機能は、[1] 酸素放出時にコバルトイオンのみが還元され、[2] その過程で全く安定した新しい結晶構造が形成されるといった2つの現象の相乗効果により初めて実現することが示されました。
研究チームは更に、酸素を再導入することで材料が元の形態に戻れることを示し、このプロセスが完全に可逆的であることを証明しました。この結晶の「呼吸」機能は、燃料電池や省エネ窓、スマート熱デバイスなどの次世代クリーンエネルギー技術の開発を大きく前進させ、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。