水の電気分解で絶縁体酸化物を熱電金属に変える
Water electrolysis switches an oxide insulator to a thermoelectric metal
[Nature Communications 2010 (OPENアクセス)
(図左)絶縁体のチタン酸ストロンチウム上に厚さ約200 nmの水を含むC12A7薄膜を堆積させてゲート絶縁体としたトランジスタ構造を作製します。
(図右)このトランジスタ構造にゲート電圧を加えると水の電気分解が起こってチタン酸ストロンチウムは金属化します。このとき熱電能Sは一旦減少しますが、金属チタン酸ストロンチウムの厚さが極薄(3 nm以下)になるとV字回復します。この現象は、2007年のNature Materials誌で発表したものと同じであると考えられます。
熱電材料は熱を電気に変換することができることから、エンジンの排熱を利用して発電するハイブリッド自動車などへの応用が期待されています。しかし、従来の熱電材料は、ビスマス、アンチモン、鉛、テルルといった希少・毒性金属などを含むことが問題であり、太田らは、それらの金属を含まない新しい熱電材料の開発を行っています。2007年には約900度の高温で人工的に原子を積み重ねて人工宝石として知られるありふれた酸化物「チタン酸ストロンチウム」を使った熱電材料の開発に成功しましたが、その手法では製造コストが極めて高く、実用化に適さないという問題がありました。
今回、大量に「水」を含んだ多孔質C12A7ガラスを新規に開発し、それぞれの孔に含まれる水を熱電材料製造に応用しました。この「水」を含んだ多孔質C12A7ガラスを金属チタンとチタン酸ストロンチウムに挟んで電圧を加えると、水の電気分解によって絶縁体のはずのチタン酸ストロンチウムの表面に、厚さ3 nm以下の極めて薄い金属チタン酸ストロンチウムが生成し、通常の金属チタン酸ストロンチウムに対して4-5倍高い電圧を示すことから、従来の熱電材料の約2倍の熱電性能が期待できます。
この成果は科学技術振興機構さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」領域、名大、東大・幾原雄一 教授のグループ(含JFCCナノ構造研究所)、東工大・細野秀雄 教授のグループとの共同研究で得られたものです。