絶縁体を電気が流れる磁石に

An insulator changes into conducting magnet -New way toward high capacity memory device-
[Advanced Electronic Materials 2016 DOI:10.1002/aelm.201600044]

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USBメモリーなどの情報記憶装置は、材料の電気抵抗変化を利用して、電気が流れる状態=1、流れない状態=0として情報を記憶します。しかし、その記憶容量は上限に近づいているため、将来の大容量化に向けた新しい技術が求められています。例えば、電気が「流れる=1」、「流れない=0」に加えて、「磁石にくっつく=A」、「くっつかない=B」という情報を同時に記憶することで、記憶容量を飛躍的に向上させられますが、従来の金属や半導体材料では実現できませんでした。

コバルトなどの金属を含む酸化物は、内包されている酸素の比率によって性質が大きく変化することが知られています。中でもコバルト酸ストロンチウムは、本来、内包されている酸素比率が83%の、電気を通さない絶縁体ですが、酸素比率を100%にすることで、電気を良く通す磁石になることから、情報記憶装置の大容量化に適した材料と言えます。しかし、酸素比率を100%にするためには、酸素中で高温に加熱するか、危険なアルカリ溶液中で電流を流す必要があるため、情報記憶装置には応用されていません。

本研究では、室温・空気中で、安全に、コバルト酸ストロンチウムに内包されている酸素比率を変化させ、電気を通さず(=0)、磁石にもくっつかない(=B)絶縁体の状態から、電気を良く通し(=1)、磁石にくっつく(=A)状態に、可逆的に切替えることに成功しました。精密な作製技術を駆使して10ナノ㍍(1ナノ㍍は十億分の1㍍)の孔が多数開いた、ナトリウムを含む酸化物の薄膜を、コバルト酸ストロンチウムに貼り付け、その上下に電極を被せた「電池」のような構造を作製しました。ナトリウム酸化物薄膜の小さな孔に空気中の湿気が入り込むことで、膜の中のナトリウムがわずかに溶解し、アルカリ溶液が染み込んだ状態になります。電流を流すことで酸素比率が100%の電気を良く通す磁石に、逆方向に電流を流すことで元の絶縁体に、室温で可逆的に変化させられることを発見しました。

現在、切替えに必要な電圧は3ボルト、時間は2-3秒ですが、今後、低電圧化・高速動作に向けた最適化を行うことで、真に実用的な大容量の情報記憶装置が実現できると期待されます。