安全かつ簡便に作れる高性能薄膜トランジスタ

ACS Appl. Electron. Mater. 7, 6952-6959 (2025). (DOI: 10.1021/acsaelm.5c00829)

ポイント

●水酸化インジウムを原料とすることで、薄膜中に安全かつ簡便に水素を導入。
●危険な水素ガスや複雑な圧力制御工程を不要にし、従来法と同等性能を実現。
●電界効果移動度約90 cm2/V·sを達成し、次世代ディスプレイ開発を加速。

概要

北海道大学大学院情報科学院修士課程の定平 光氏、同大学電子科学研究所の太田裕道教授、曲 勇作助教(研究当時)、同大学大学院工学研究院の三浦 章教授らの研究グループは、危険な水素ガスや複雑な圧力制御を用いずに、電界効果移動度約90 cm2/V·sの高性能薄膜トランジスタの開発に成功しました。

水素添加酸化インジウムを活性層とする薄膜トランジスタは、現在主流の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)薄膜トランジスタの約10倍の電界効果移動度を示すことから次世代ディスプレイ用素子として注目されています。しかし、水素は酸素と混合すると爆発の危険があるため、従来の水素ガスを用いた製造法には安全性の課題がありました。研究グループは2024年8月、水素ガスを使わずに高性能薄膜トランジスタを実現しましたが、その際には薄膜作製容器内の圧力を制御する複雑な工程が必要でした。

本研究では、水酸化インジウムを原料とし、薄膜中に安全かつ簡便に水素を導入する新たな手法を開発しました。その結果、複雑な圧力操作を必要とせず、高性能薄膜トランジスタの作製に成功しました。本成果は、次世代ディスプレイ用薄膜トランジスタの開発を大きく加速させるものです。

なお、本研究成果は、2025年8月3日(日)にACS Applied Electronic Materials誌にオンライン掲載されました。

論文名:Indium Hydroxide Ceramic Targets: A Breakthrough in High-Mobility Thin-Film Transistor Technology(水酸化インジウムセラミックターゲット:高移動度薄膜トランジスタ技術のブレークスルー)
URL:https://doi.org/10.1021/acsaelm.5c00829

詳細はこちら


水酸化インジウムを原料とすることで、安全かつ簡便に、電界効果移動度90 cm2/V·sの水素添加酸化インジウム薄膜トランジスタを実現した。