酸化物人工超格子の分数層制御により、熱電能の大幅増強を観測
北海道大学電子科学研究所の太田裕道 教授は、米国オークリッジ国立研究所のHo Nyung Lee博士、韓国 成均館大学校のWoo Seok Choi助教と共同で、分数層制御された二次元酸化物人工超格子の熱電能増強効果を見…..
北海道大学電子科学研究所の太田裕道 教授は、米国オークリッジ国立研究所のHo Nyung Lee博士、韓国 成均館大学校のWoo Seok Choi助教と共同で、分数層制御された二次元酸化物人工超格子の熱電能増強効果を見出し、高効率熱電材料の材料設計に向けて前進しました。この研究成果 は、2014年10月22日発行の独科学誌Advanced Materialsに掲載され、内表紙としてハイライトされました。
火力発電所や工場、自動車では、化石燃料を燃やして電力や動力に変えています。つまり、化学エネルギーを電気エネルギーや運動エネルギーに変換しているわ けです。この変換過程で生じるロスが「排熱」です。「排熱」は熱エネルギーですが、使いづらいため、ほとんど利用されることなく捨てられています。
熱電変換は、こうした利用しづらい排熱を、利用しやすい電気エネルギーに変換する技術です。熱電材料に温度差をつけると、熱起電力(電圧)が発生し、電気 回路に組み込めば電力を取り出せます。つまり熱電材料を排熱のある工場や火力発電所に設置すれば、化学エネルギーの利用効率が高まり、その結果、化石燃料 の消費量・CO2排出量の削減につながります。
しかし、現在多く利用されている材料は、重金属であるビスマス、アンチモン、鉛などであり、地球上における埋蔵量が少なく、毒性があり、また耐熱性が低い ことから本格的な実用化は妨げられています。近年、毒性がなく、耐熱性が高い酸化物が注目されてきていますが、重金属に比べ熱電変換効率が著しく低いとい う問題がありました。
15年ほど前からチタン酸ストロンチウムが酸化物熱電変換材料として注目されています。チタン酸ストロンチウムは、本来、電気を通さない絶縁体ですが、少 量のランタンやニオブを添加したり、内包されている酸素を引き抜くことで金属化することが知られています。
研究グループは原子オーダーで精密な薄膜合成が可能なパルスレーザー堆積法を用いて1単位格子厚の金属LaxSr1-xTiO3を10単位格子厚の絶縁体SrTiO3で挟み込んだ分数δドープ人工超格子を作製した結果、その熱電出力因子がバルク比300%以上増強されることを見出しました。今回の成果は高効率な酸化物熱電材料の材料設計に向けた大きな前進と言えます。
なお、本研究成果の一部は、JSPS科学研究費基盤研究(A)(課題番号25246023)及び新学術領域研究「ナノ構造情報」(課題番号25106007)のサポートを受けて実施したものです。