プレス発表

絶縁体を電気が流れる磁石に ―情報記憶容量の大幅向上に新たな道―

本来絶縁体である酸化物を、電気が良く流れる磁石に、室温で可逆的に変えることに成功しました。電気が流れる=情報「1」、流れない=情報「0」に加え、磁石にくっつく=情報「A」、くっつかない=情報「B」を記憶することで、USBメモリなどの情報記憶装置の記憶容量を、大幅に向上させるための新しい技術として期待できます。この成果は、2016年3月30日、アドバンスト・エレクトロニック・マテリアルズにオンライン掲載されました。

T. Katase, Y. Suzuki, and H. Ohta, “Reversibly switchable electromagnetic device with leakage-free electrolyte”, Adv. Electron. Mater. (2016). [DOI:10.1002/aelm.201600044]

 

【研究背景】

USBメモリに代表される現在の情報記憶装置は、シリコンなどの半導体の電気抵抗変化を利用して、電気が流れる状態を“1”、流れない状態を“0”として情報を記憶しています。単位体積あたりの情報が記憶できる容量は、装置を小さくすればするほど増やせますが、装置の微細化は限界に近づいているため、将来の大容量化に向けた新しい技術が求められています。例えば、電気が「流れる=1」、「流れない=0」という記録に加えて、「磁石にくっつく=A」、「くっつかない=B」、という情報を同時に記憶することで、記憶容量を飛躍的に向上させられます(図1)。しかし、これまでに知られている金属や半導体材料では実現できませんでした。

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図1 本研究の情報記憶装置の概念図 電気が流れる=情報「1」、流れない=情報「0」に加え、磁石にくっつく=情報「A」、くっつかない=情報「B」を記憶することで、記憶容量が二倍になる。

コバルトなどの金属を含む酸化物は、内包されている酸素の比率によって電気を通す/通さない、磁石にくっつく/くっつかないなどの物理的な性質が大きく変化することが知られています。中でも、コバルト酸ストロンチウム(化学式:SrCoOx 2.5≦x≦3)は、内包されている酸素比率が83%のSrCoO2.5が安定で、電気を通さず磁石にくっつかない絶縁体ですが、酸素比率が100%のSrCoO3とすることで電気を良く通す磁石になることから、電気の通しやすさと磁力の切替えを利用した情報記憶装置の大容量化に適した材料と言えます。しかし、酸素比率を100%にするためには、酸素中で高温に加熱するか、危険なアルカリ溶液中で電流を流す必要があるため、情報記憶装置には応用されていませんでした。

 

【研究手法】

本研究では、危険なアルカリ溶液の代わりに、アルカリを含む酸化物(NaTaO3)を用いました。まず、パルスレーザー堆積法と呼ばれる、精密な作製技術を駆使して、酸素比率83%のSrCoO2.5薄膜を作製し、その上に、10ナノ㍍(1ナノ㍍は十億分の1㍍)の孔が多数開いた、NaTaO3薄膜を積み重ね、さらにその上に酸化タングステンWO3薄膜を被せた、図2に示す情報記憶装置を作製しました。作製した情報記憶装置の電極1-2間に電流を流した後の、電極2-3間の電気抵抗と、SrCoOx薄膜の磁化(磁石になりやすさの指標)を計測しました。

Fig2

図2 本研究で作製した情報記憶装置の(上)模式図と(下)電子顕微鏡像 SrCoO2.5薄膜、NaTaO3薄膜、WO3薄膜を積み重ねた構造。

 

【研究成果】

作製した情報記憶装置の電極1-2間に電流を流すことにより、室温・空気中で、安全に、SrCoOxに内包されている酸素比率を変化させ、電気を通さず(=0)、磁石にもくっつかない(=B)絶縁体の状態から、電気を良く通し(=1)、磁石にくっつく(=A)状態に、可逆的に切替えることに成功しました。電極1-2間に印加電圧-3 Vで電流を流したところ、SrCoO2.5の中に酸素が取り込まれ、SrCoO3に変化することが分かりました。電流を流す前は1メガ(百万)オーム以上あった電気抵抗が、電流を流した後には1キロ(千)オームに減少し、電気を良く通すようになりました。また、電流を流す前は磁石を近づけてもくっつかない状態でしたが、電流を流した後には磁石にくっつく性質を示しました。逆に、電極1-2間に印加電圧+3 Vで電流を流して酸素比率を83%に減らすことで、元通り電気を通さず、磁石にくっつかない状態に戻りました。この酸素の出し入れは繰り返し行うことが可能で、100%可逆的に切り替えられることが分かりました(図3)。

Fig3のコピー

図3 ゲート-ソース間に電流を流した後の(左)電気抵抗(ドレイン-ソース間)と(右)磁化の温度変化 印加電圧-3 Vで電流を流した後には、ドレイン-ソース間に電気が流れ、磁石にくっつく状態になり、逆に、印加電圧+3 Vで電流を流した後は、元通り電気が流れない、磁石にくっつかない状態に戻る。

 

以上のように、印加電圧-3 Vで電流を流すことで、酸素比率が100%の電気を良く通す磁石に、逆に、印加電圧+3 Vで電流を流すことで元の絶縁体に、室温で、可逆的に切替えられることを発見しました。なお、この切替えに必要な電流を流す時間は2~3秒でした。

 

【今後への期待】

将来的に、切替えに必要な電圧(現在3 V)を低電圧化するとともに、ゲート-ソース間に電流を流す時間(現在2~3秒)を低減することで,低電圧・高速動作が可能で、真に実用的な大容量の情報記憶装置が実現できると期待されます。なお、本研究成果の半導体装置は、国際出願番号:PCT/JP2016/050206 (国際出願日:2016年1月6日)として、すでに国際出願されています。

 

【補足資料】

ブレークスルーのポイント

本研究で作製した情報記憶装置は、実は、身近にある「電池」(ニッケル水素電池など)の構造から着想しました。電池では、「セパレータ」と呼ばれる細かい孔が多数開いている布に、アルカリ溶液を染み込ませたものを、プラス電極とマイナス電極の間に挟み込むことでアルカリ溶液が漏れないようにしています(図4左)。本研究では、「セパレータ」の代わりに無数の小さな孔が開いたNaTaO3薄膜を使いました(図4右)。小さな孔に空気中の湿気が入り込むことで、膜の中のナトリウムがわずかに溶解し、アルカリ溶液が染み込んだセパレータとよく似た状態になります。ここで、染み込んだアルカリ溶液は、液漏れしないので安全に使用することができます。室温、空気中で、NaTaO3薄膜の電気伝導度を計測したところ、2.5 μS/cmでした。電気伝導度とアルカリ性の強さには相関がありますが、染み込んだアルカリ溶液の電気伝導度は、温泉(例えば箱根温泉、約6 μS/cm)よりも低く、安全性に全く問題がないことが分かりました。※電気伝導度の単位:S(ジーメンス=1/オーム)、1 μ(マイクロ)は百万分の1

Fig4

図4 (左)ニッケル水素電池と(右)本研究の情報記憶装置の模式図 どちらの場合も、充電するとプラス極が酸化されて(酸素が入る、または水素が出る)、マイナス極に水素が入り、放電するとプラス極が還元されて、マイナス極から水素が出るという仕組みで、繰り返し使用できるという特長がある。