プレス発表

常識を覆す!多結晶よりも熱が伝わりにくい単結晶を発見

~低熱伝導材料を設計するための指針~

北海道大学プレスリリース

Hai Jun Cho, Yuzhang Wu, Yu-Qiao Zhang, Bin Feng, Masashi Mikami, Woosuck Shin, Yuichi Ikuhara, Yu-Miin Sheu, Keiji Saito, and Hiromichi Ohta, “Anomalously Low Heat Conduction in Single-Crystal Superlattice Ceramics Lower Than Randomly Oriented Polycrystals”, Adv. Mater. Interfaces (2021). (February 16, 2021) (DOI: 10.1002/admi.202001932)

概要

北海道大学電子科学研究所のジョヘジュン助教と太田裕道教授ら及び国内外の研究機関からなる国際共同研究グループは,一般に熱を伝えやすいと考えられている界面のない単結晶に,数nm周期の超格子*1と呼ばれる構造を導入することで,熱を伝えにくいはずの多結晶よりも熱を伝えなくなることを発見しました。
電気を通さないセラミックの熱伝導は, 原子の振動の伝播で起こるため,結晶の界面で大きく減衰します。一般に,結晶の方向が揃っていない多結晶には多くの界面が含まれているため,多結晶は単結晶よりも低い熱伝導率を示します。研究グループは,ある結晶に固有の数nm周期で二種類の成分が積み重なった「超格子」構造を有するセラミックの単結晶薄膜を作製し,超格子に直交方向,平行方向の熱伝導率の比較をするとともに,多結晶の熱伝導率との比較も行いました。
その結果,単結晶であるにも関わらず,超格子に直交方向の熱伝導率は多結晶よりも低いことを発見しました。今回の発見は,単結晶内の異なる成分間の層状の境界が熱伝導を著しく低減することを示唆しており, 低熱伝導材料を設計するための大きな指針を与えると期待されます。なお,本研究成果は,日本時間2021年2月16日(火)公開のAdvanced Materials Interfaces誌に掲載されました。

【論文情報】

論文名 Anomalously Low Heat Conduction in Single-Crystal Superlattice Ceramics Lower than Randomly Oriented Polycrystals(ランダム配向多結晶よりも低い単結晶超格子セラミックスの異常に低い熱伝導)
著者名 ジョヘジュン1, 呉 宇章2, 張 雨橋1, 馮 斌3, 三上祐史4, 申ウソク4, 幾原雄一3, シューユーミン5, 齊藤圭司6, 太田裕道11北海道大学電子科学研究所, 2北海道大学大学院情報科学院, 3東京大学大学院工学系研究科, 4産業技術総合研究所中部センター, 5台湾国立交通大学創発機能物質科学センター, 6慶應義塾大学物理学科)
雑誌名 Advanced Materials Interfaces(独・材料科学の専門誌)
DOI 10.1002/admi.202001932
公表日 日本時間2021年2月16日(火)午前1時(独国時間2021年2月15日(月)午後5時)(オンライン公開)

【背景】

熱伝導率が低い低熱伝導セラミックは,耐熱材料などの熱バリアコーティング剤として重要な材料です。電気絶縁体であるセラミックの熱伝導は,原子の振動の伝播で起こるため,結晶の界面で大きく減衰します。一般に,結晶の方向が揃っていない多結晶には多くの界面が含まれているため,多結晶は単結晶よりも低い熱伝導率を示します。セラミックをさらに低熱伝導率化するためには,複数のセラミックスを数nmの周期で積層する「超格子」構造が有用ですが,超精密な薄膜作製手法によって数nmずつ交互に積層する必要があり,大面積化に不向きで,時間がかかるため,実用的ではないという問題がありました。

【研究手法】

研究グループは,結晶固有の「自然超格子」と呼ばれる数nm周期で二種類の成分が積み重なった構造を有するセラミック,InGaO3(ZnO)m (mは自然数)に着目しました。研究グループは,反応性固相エピタキシャル成長法*2と呼ばれる手法によって様々なm値のInGaO3(ZnO)m単結晶薄膜を作製し(図1),超格子に直交方向,平行方向の熱伝導率の比較をするとともに,結晶の方向が揃っていない多結晶の熱伝導率との比較も行いました。

図1. 作製したInGaO3(ZnO)m (m = 14)単結晶薄膜の(a) 原子間力顕微鏡像と(b) 走査型透過電子顕微鏡像。薄膜の表面は原子的に平坦。電子顕微鏡像で, 相対的に明るく見えるのがInO2層, 暗く見えるのがGaO(ZnO)m層。

【研究成果】

初めに,作製したInGaO3(ZnO)m単結晶薄膜の熱伝導率(室温)を,厚さ1nmあたりの境界の数に対してプロットしました(図2)。超格子に直交方向の熱伝導率は,厚さ1nmあたり0.5から0.6枚の境界があるときに熱伝導率は極小(約1 W m−1 K−1)になることが分かります。超格子に平行方向と多結晶はほぼ同様の振る舞いですが,極小値は約3 W m−1 K−1です。単結晶であるにも関わらず,超格子に直交方向の熱伝導率は多結晶の1/3しかなく,低熱伝導率であることがわかりました。

図2.  InGaO3(ZnO)m単結晶薄膜の熱伝導率(室温)。超格子に直交方向の熱伝導率は, 超格子に平行方向・多結晶と比較して低いことが分かる。多結晶は超格子に平行方向とほぼ同じ熱伝導率を示す。

また,超格子に直交方向では,InO2層とGaO(ZnO)m層の境界で熱伝導が減衰するため,単結晶であるにも関わらず低い熱伝導率を示します。超格子に平行方向では,境界による熱伝導の減衰はなく,高い熱伝導率を示します。多結晶の熱伝導率は,超格子に平行方向の熱伝導率とほぼ同じです(図3)。

図3. 超格子構造を有するInGaO3(ZnO)m単結晶の熱伝導。超格子に直交方向では,InO2層とGaO(ZnO)m層の境界で熱伝導が減衰するため低い熱伝導率を示す。超格子に平行な方向では,界面による熱伝導の減衰はなく,高い熱伝導率を示す。多結晶の熱伝導率は,超格子に平行方向の熱伝導率とほぼ同じであり,単結晶であるにも関わらず,超格子に直交方向の熱伝導率は多結晶よりも低いことを発見した。

【今後への期待】

今回の発見は,単結晶内の異なる成分間の層状の境界が熱伝導を著しく低減することを示唆しており,耐熱材料などの熱バリアコーティング剤としての低熱伝導材料を設計するための大きな指針を与えると期待されます。

【謝辞】 本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業・基盤研究(A)「熱電材料の高ZT化に向けたナノ周期平行平板構造の熱伝導率解明(課題番号17H01314)」,新学術領域研究(研究領域提案型)「機能コアの材料科学」(領域代表:松永克志 名古屋大学・教授)における計画研究「界面制御による高機能薄膜材料創製(課題番号 19H05791)」及び「界面機能コア解析(課題番号 19H05788)」,日本板硝子財団,イノベーション創出ダイナミック・アライアンス,物質・デバイス領域共同研究拠点の助成を受けた成果です。本研究の一部は,文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム・東京大学微細構造解析プラットフォーム(課題番号JPMXP09A20UT0090)の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

北海道大学 電子科学研究所 助教 ジョヘジュン(じょへじゅん)

TEL 011-706-9432   FAX 011-706-9432   メール joon(at)es.hokudai.ac.jp

北海道大学 電子科学研究所 教授 太田裕道(おおたひろみち)

TEL 011-706-9428   FAX 011-706-9428   メール hiromichi.ohta(at)es.hokudai.ac.jp

URL https://functfilm.es.hokudai.ac.jp/

【用語解説】

*1 超格子 … 複数の成分が周期的に積層した層状の構造のこと。通常は,超精密な薄膜合成手法を用いて人工的に積層して作製されることから人工超格子と呼ばれるが, 今回の超格子は, セラミックスの結晶構造が超格子のように見えることから, 自然超格子と呼ばれる。

*2 反応性固相エピタキシャル成長法 … InGaO3(ZnO)m (mは自然数)のように, 自然超格子構造を持つセラミックスの単結晶薄膜を作製するための唯一の方法。